恋宿~イケメン支配人に恋して~
「お前……帰ったんじゃなかったのか?」
「帰りましたよ。それで、よく考えました。考えて戻って来たんです」
拒まれたら、どうしよう。帰れと突き放されたらどうしよう。
怖い。だけど、素直な気持ちを伝える。あとであの時ああしていればと後悔したくないから。
「私、ここに居たいです。だから、働かせてください」
「……なに言ってるんだよ、流れで適当なこと言うもんじゃねーぞ」
「適当なんかじゃない。千冬さんの傍にいたいんです。千冬さんと、この旅館で一緒に過ごしたいんです」
ちいさくて、あたたかい。沢山の人に守られてきた。あなたと出会ったこの場所が、私が居たいと願う場所。
まっすぐに目を見て言った私に、千冬さんは目をそらし拒むように背中を向けた。
「……帰れ。ここに居たいなんて今だけの気の迷いだ。どうせすぐに帰りたくなる」
「そんな、」
「だいたいお前仕事はどうした?向こうでの生活を全部投げ出してまでここに来る度胸なんてないだろ。ならふざけてないでさっさと帰れ」
そう言って千冬さんはそのまま旅館の玄関へと入ってしまう。
想像した通りの拒絶。目を見ていってもくれない。
拒まれるのは悲しい、つらい、痛い。だけど逃げたくない。ひとりで結果を決めつけて、勝手に終わらせたりしたくない。
「っ……」
追いかけるように中へと入って行くと、フロントには大渕さんがいたものの、ただならぬ私と千冬さんの空気にそっと奥へと入って行く。
不意に目にとまるのは玄関に飾られたお皿や壺など立派な置物たち。それをおもむろに手に取ると、床へ落とした。