恋宿~イケメン支配人に恋して~
言ってしまった。それも、大声で。
勢いと興奮で息を上げる私に、一瞬その場はしんと静まり返る。
かと思えば次の瞬間、彼からこぼされたのは「ふっ」という小さな笑い。
「な……なんで笑うんですか」
「いや……すごい告白だと思ってな。物壊して大声あげて、強烈すぎ」
まさか笑われるとは思わず驚いてしまうけれど、口元を押さえてくく、と笑う姿に少し安心する。
「参った、降参。本当、お前には敵わないな」
千冬さんはそう参ったように笑うと、私の腕を掴んでいた手をそっと離す。
「……そうだよな。お前が自分でここに戻って来たんだ、それだけで充分気持ちも分かるはずなのに。悩んだり過去のことを気にしてた自分がバカみたいだ」
そして、目と目をしっかり合わせると両腕でぎゅっと私の体を抱きしめた。
八木さんが言っていた通り、千冬さんも千冬さんでいろいろと悩み考えていたんだろう。
傷つきたくない、どうせ失くしてしまうのなら、そうやって自分を守っていたんだ。
「傷付けるような言い方して、悪かった。……ごめん」
「……本当ですよ。私なんていらないなんて、ひどい言い方」
「多少ひどい言い方でもしてお前を帰らせたかったんだよ。自分の気持ちも、無理矢理にでも引き離さないと断ち切れないと思ったから」
大きな背と力強い腕に包むように抱きしめられ、彼の胸に顔をうずめる。
匂いが、体温が、こころを安心させてくれる。
怖かった。気持ちを伝えること。拒まれるかもしれないと思いながら、ここまで来ること。
だけど、抱きしめるその腕が、私の選んだ道が間違いじゃなかったことを教えてくれる。