恋宿~イケメン支配人に恋して~
「お座りください」
パタン、と閉じられた襖に室内を見れば、そこは高そうな木目のテーブルと朱色の座布団のある和室。
恐らく応接室なのだろうその部屋で、私は恐る恐るテーブル奥の席に座った。
一方で彼は部屋の端でお茶を淹れると、テーブルの上に湯のみをふたつ置く。
「あの、すみませんでした……花瓶」
「いいえ、ですがどうしてあそこに?こちらの棟は従業員用の別館なんですが」
「歩いているうちに迷ってしまって。でも花瓶割ったのもわざとじゃないんです!つまずいて……本当にすみません!」
なんと言ったって300万の物を壊してしまったのだから、さすがの私も深く頭を下げて必死に謝る。
「そうですか……わざとじゃないなら、仕方ないですよね」
そんな私に、かけられる声はとても優しいもの。
その声に呼ばれるように顔を上げると、芦屋さんは目を細めて穏やかな笑顔を見せている。
やっぱりかっこいい顔してるなぁ……って、そうじゃなくて!
この反応はもしや、許してくれるということ?
よ、よかったー!本当にいい人でよかったー!!
「……なんて、言うわけないだろうが。バカ女」
「え?」
ところが、その瞬間聞こえた声は先程までの穏やかなものとは全く違う、低く太く優しさなど微塵もないもの。