恋宿~イケメン支配人に恋して~
「そ、そんなの絶対払いきれない……」
「一生かけて払えばいいだろ、ここで」
「え?」
『一生かけて』
それってつまり、ここにいてもいいということ?
きょとん、と見上げる私に、千冬さんは愛おしい瞳で微笑んで頭を撫でると、抱きしめていた腕をそっとほどく。
「さて、そうと決まれば早速仕事だ。休憩室に制服の予備がしまってある、さっさと着替えてこい」
「……はいっ」
その言葉とともに歩き出す彼に、続くように私も歩き出した。
一生かけて?上等。文句も言えないくらい、全力で働いてみせるんだから。
だから、信じて。その手を離さないでいてね。
吉村理子、23歳。空っぽだった私に、居たいと思える場所と、手をつないでいたいと思える人が出来ました。
大切なそれらを、守っていくために。
今日からここで、女将修行を始めます。