恋宿~イケメン支配人に恋して~
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14.穏やかな朝
かくかくしかじか乗り越えて、ここ新藤屋にて正式に仲居として働くことになりました。
「宴会場にビール運んで!足りない!」
「料理も数足りないよ!」
「誰か客室に運ぶの手伝ってー!」
とりあえず身ひとつでやって来た7月頭の旅館は、バタバタと忙しい日が続いている。
今日も団体のお客さんが入っている夜の宴会場。そこで忙しなく動く仲居の皆の間で、私も慌ただしく宴会場を端から端まで動き回っていた。
「理子ちゃん、これ奥の席のお子さんに運んで!」
「はーい」
廊下に出たところで箕輪さんから手渡されたオレンジジュースの瓶を手に、また座敷へと上がる。
奥の席の子供……あ、いた。
すぐにその姿を見つけ、瓶を持っていく。
「はい、オレンジジュースお待たせしました」
「わーい!ありがと、おばさん!」
「なっ!?」
お、おばさん!?
その一言に思わずキッと睨む私の視線には気付くことなく、子供は喜んでオレンジジュースを開ける。
このガキ……誰がおばさんよ、誰が。
思わず出そうになった文句をぐっと飲み込み、不満げな顔で座敷をおりると廊下へと出た。
「理子」
するとそこには、宴会場の様子を見に来たのだろう千冬さんが立っていた。
その姿は今日も紺色のスーツに包まれ、ピシッと綺麗に整っている。