恋宿~イケメン支配人に恋して~
「千冬さん」
「ちょっとこっち来い」
手招く長い指先に、なんだろうと不思議に思いながら、宴会場からは見えづらい廊下の角へ行く彼の後ろについて行く。
「なんですか、まだ忙しい……」
そしてそう言いかけたところで、千冬さんは両手でガシッと私の顔を掴む。
その表情は、明らかに怒りを浮かべて。
「お前は本当に……どうしてそう不満な時だけ素直に顔に出るんだ!!」
「あー……見てました?」
「あぁ見てたよ!ばっちりな!俺の距離から見て分かったんだから近くにいた八木たちはさぞかしヒヤヒヤしただろうな!!」
先程の私の子供への目つきを見ていたのだろう。「このバカ!」と目をつりあげて怒る。
「ったく……子供相手にいちいち怒るな。流せ」
「だって私まだおばさんって言われるような歳じゃないです」
「ああ言えばこう言う口はこの口か?あぁ?」
「いだだだだ」
相変わらず可愛げのない私の頬をぎゅーっとつねるその手を引き離すと、じんじんと痛む頬をさすった。
思い切りつねることないじゃんか!
無言で訴えるようにじっと見るものの、千冬さんはそれを感じ取っているのかいないのか、呆れたように溜息をひとつこぼす。