恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあ私たち先にあがるからね!あとはよろしく!」
「はーい、お疲れ様です」
その後、宴会を終え片付けを終え帰っていく皆の一方で、洗い場の人手が足らないからと私と八木さんはふたり残りガチャガチャと食器を洗っていた。
「理子ちゃん、戻って来てから毎日忙しくて大変だねぇ」
「7月になった途端こんなに忙しくて……6月の暇さが嘘みたいですね」
「ふふ、8月は毎日満室だから覚悟しておいてね」
「えっ」
今の忙しさですら大変なのに、毎日満室って……つらすぎる。
露骨に嫌そうな顔をする私に、八木さんはうふふと笑って手元のお皿を洗う。
「でも理子ちゃんが帰っちゃった時はどうなることかと思ったけど、戻ってきてくれてよかった」
「うっ。そ、その節はご迷惑をおかけして……」
「いいのいいの、私のただのお節介だから」
泡のついた小皿をお湯でザー、と流すと、食器カゴに積む。ひたすらそれを繰り返す手にシンクの中の食器は徐々に減っていく。
「でも千冬さんも嬉しそうにしてるし、やっぱり愛だねぇ」
「愛……ですかね。戻って来た直後、私が壊した置物代と床の修理費が総額いくらかかるのか電卓叩きながら叱られましたけど」
「そ、それも愛だよ……多分」
話しながら思い出すのは、先日の光景。
私が壊してしまった置物と、傷がついた床を綺麗にするには予想以上に費用がかかったようで、『お前はどうしてこういつも考えなしに動くんだ!!』と電卓を叩きながら怒る千冬さんの怖い顔。
八木さんは苦笑いでフォローしてくれるけれど、それが愛じゃないことなど私でも分かる。