恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……ふぅ、」
ほかほかとした体でお風呂から出た頃には、時刻は既に深夜0時半。
私の寝巻きは、宿泊していた1ヶ月間はもちろん、今だにこの旅館の浴衣だ。この浴衣もラクでいいけど、そろそろパジャマも買わなきゃなぁ……。
濡れた髪をタオルで乾かしながら、手元のシフト表を確認すれば、明日の自分のシフトは昼から夜。
晴れて正式な仲居となった私は、これまで丸1日だった勤務時間も早番や遅番など皆と同じ勤務シフトとなった。
だけど相変わらず、早番の時は朝は早いし遅番だと寝るのがどうしてもこの時間になってしまう。
「でも明日はお昼からなら少しゆっくり寝られるなぁ……」
ふぁ、とあくびをこぼしたその時、トントンと部屋のドアをノックする音が響いた。
ん?こんな時間に誰だろう……。
「はーい……」
「俺だ」
「千冬さん?」
聞こえた低い声にドアを小さく開けると、そこから姿を現したのはまだスーツ姿のままの千冬さん。
もうすっかり寝たと思っていたばかりに、少し驚いてしまう。
「どうしたんですか?もう寝たんじゃ……」
「機械トラブルで呼ばれててまだ寝てない。今すぐにでも寝たいところだが、さっきのお前の言いかけたことも気になったからな」
「え?」
「お前が『別に』ってつけるときは、言い訳か嘘か見栄。だから、何か言いたいことがあるんだろ?」
見抜かれていた。
自分で思う以上に私はわかりやすいらしく、言い当ててしまう彼に、もうここでどう誤魔化しても無駄だと知る。
言って、いいのかな。だけどこうして耳を傾けてくれるのなら……伝えてみよう。