恋宿~イケメン支配人に恋して~
今の……え?誰の声?
目の前を見てもにこにことする芦屋さんがいるだけ。でも今の声は絶対違う人。こんな素敵な笑顔の人があんな言い方をするわけがない。
他に誰かいるのだろうかと、室内をキョロキョロと見渡す。
「今、変な声が聞こえた気が……」
「何キョロキョロしてるんだよ。話してる最中によそ見してるんじゃねーぞ、バカ女」
「へ……?えぇ!!?」
違う。他に誰かがいるわけじゃない。目の前のこの彼が言ったのだとようやく気付いた私に、芦屋さんはみるみると、穏やかな笑顔からゴミを見下すような顔に表情を変えていく。
「え?芦屋、さんですよね?え?え??」
「そうに決まってるだろうが。お前は人の顔と名前すらも覚えられないのか?本当クズだな」
「いや、だって、さっきまであんなにニコニコしてたのに……」
「接客業だからな。営業スマイルに決まってるだろ」
隠すことなく堂々と言って、またにこりと先程の優しい笑顔を見せたかと思えば、彼はパッと表情を戻す。
う、うそ……営業スマイル?こっちが本性?
あ、ありえない……!!
「詐欺だ……」
「何とでも言え。俺を詐欺だと訴えたところでお前は器物破損罪だがな」
ふふん、と笑って彼はテーブルの上の湯のみのお茶を一口飲んだ。