恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……いたいです」
「え?」
「……一緒に、いたいです。少しで、いいから」
小さな声でそう呟き、千冬さんのスーツの袖をきゅっと握る。
あぁ、はずかしい。こんな風に自分の本音を伝えたのなんて初めてだ。
前までの私だったらきっと、『なんでもないってば!』って、強く言って逃げてしまっていただろう。
だけど、千冬さんにだから。こうして気持ちが、表せる。
「……理子、」
すると千冬さんはよしよしと私の頭を撫でた。かと思えば突然靴を脱いで部屋へとあがり込む。
「千冬さん?」
「こっちで仮眠取る。2時間だけだけどな」
「いいんですか。疲れてるなら、ひとりでゆっくり休んだほうがいいんじゃ……わっ」
疑問を言葉にする私に、千冬さんは言葉を塞ぐように脱いだスーツのジャケットをばさっと顔に投げつけた。
「いいから寝るぞ」
『余計なことは考えるな』と、言わんばかりの笑み。あぁ、これが八木さんの言っていた『呆れながらも喜んでる』の状態なのかも。
そうなんとなく感じながら、ドアと鍵を閉めると、彼の元へ近付いた。