恋宿~イケメン支配人に恋して~
小さな部屋の真ん中に敷かれた、一人用の小さな布団。
その中で、浴衣姿の私はワイシャツにスラックスのままの彼に抱きしめられながら夜を過ごしていた。
いつもなら薄手の布団一枚でちょうどいい気温のはず。だけど、この状態のせいで今日は熱くてしょうがない。
その左腕は枕に、右腕は抱きしめる形で回され……こんなに密着した状態で、普通でいられるわけがないから。
「……すー……」
「……」
腕の中から見上げれば、小さな寝息をたてぐっすりと眠る千冬さんがいる。
ていうか……なんでこの人は、こんなに平然としていられるの!!
まぁ、疲れてるからだろうけどさ……。
布団に入ってすぐに聞こえ始めた寝息から、やはりクタクタだったのだろう。時々「ん……」と小さな声を漏らしながらも、彼は起きる気配はない。
白い肌に、目にかかりそうな黒い前髪。伏せられた睫毛と整った眉。
改めてこうして近くで見ても、やっぱり綺麗な顔をしてる人だと思う。
あ……目元にクマ。小さくだけどシワもある。
若く見えても、やっぱり相応に歳を取っているんだ。ましてやいつも動きっぱなしだし、疲れがたまっているのだろう。
「……お疲れ様、です」
小さく呟いてその胸に顔をうずめると、彼の肌の匂いと煙草の匂いがする。
いつも背筋を伸ばして歩く彼が、こうして寄り添ってくれる。それだけで、想いがある証なのかもしれない。
触れ合う時間は少ないけれど、その分こうして抱きしめるだけで分け合える想いがある。
……愛しい。
込み上げる気持ちを抱き締めるように、その体をそっと抱き締めた。