恋宿~イケメン支配人に恋して~
15.ふたり
「そういえばお前、ここに来ること家族には話してあるのか?」
旅館に戻ってきて、一週間と少しが経とうとしているある日曜の夜。
リネン室にて、クリーニングに出したシーツを棚に積むという千冬さんの仕事を手伝っている最中、唐突にこぼされた問い。
その一言に、私の心臓はギクッと音を立てる。
「な……なんでですか、いきなり」
「お前実家住みって言ってただろ。いきなり会社辞めてこんな山の方で暮らすなんて、よく家族が納得したと思ってな」
「あー……そう、です、ねぇ……」
「……」
少し上ずった声で目をそらしながらシーツを積み上げる私に、隣の千冬さんは怪しむようにこちらを見た。
「……理子。怒らないから正直に答えろよ?」
「しょ、正直に言ってますけど」
「本当か?ここにいること、会社を辞めたこと、俺と付き合ってること、全部きちんと話してあるんだろうな?」
「全部は……その、まだ、ですけど」
背中を向ける私に、そうはさせまいとその手は顔を掴むと力づくで彼の方へと向かせる。
目を見て言え、ということなのだろうけど、目を見てなんて言えるわけがない。
だって、千冬さんが『怒らないから』と言って本当に怒らない人じゃないことくらい、付き合いの短い私でもよく分かっているから。
けれど、仕事もそっちのけで顔を掴む手は強いし、問い詰めるような目つきは鋭いし……そのまましらばっくれることも、上手く嘘をつくことも出来ず、観念したように小さく溜息をついた。