恋宿~イケメン支配人に恋して~
「で?どうしてくれるんだ?300万だぞ、300万。何年か前の新装開店の時にわざわざ貰った記念品」
「で、でもわざとじゃないなら仕方ないって……」
「わざとじゃないのは分かった。けど弁償しなくていいなんて誰も言ってないだろうが」
先程差し伸べてくれた大きな右手は、脅かすようにバン!とテーブルを叩く。
ひ、ひいい……怖い……!
「べ、弁償、しま、す……」
「払えるんだな?300万」
「分割で!月3万の100回払いで!」
「返済完了まで何年かける気だ!!」
ま、まずい。そんな金額、払えるわけがない。
貯金だってこの旅行でほとんど使いきるつもりだったし、仕事も辞めてもいい覚悟で休暇届け出したし。
親に借りられるわけないし、私の給料で300万なんて借金が出来るとも思えない。
けど、じゃあどうしたら……!
芦屋さんは私の答えを待つようにイライラとテーブルを小突く。その時、彼のスーツの胸ポケットからヴー、とバイブ音が聞こえた。
「電話……ちょっと待ってろ」
「は、はい」
彼は取り出した白いスマートフォンの画面を確認すると、手早く電話をとる。
「はい、芦屋です。……あぁ、はい。は?はぁ!?なんでまた……」
何か問題が起きたのだろうか、驚きながら話を聞いている。かと思えば少し眉間にシワを寄せ、私をちら、と見ると渋々何かに納得するように頷いた。