恋宿~イケメン支配人に恋して~
「世間知らずのお前が、ましてやよく知らない土地で旅館の女将なんて出来るわけがないだろう」
「あなた、そんな……」
「芦屋くん、と言ったか。君もそうだろう。もし理子が旅館の力になれないとなれば、簡単に見捨てて他の人を選ぶんだろう?」
そんな言い方……。
けど、分かっている。これが普通の考えだって。
思ったように上手くいくとは限らない。良いことばかりを想像している、私が甘いんだってこと。
……だけど。
反論したいけどできない、そんな言葉を堪えるように、ぐっと拳を握る。すると隣の千冬さんの左手は、テーブルの下で私の右手にそっと重ねられた。
え……?千冬さん?
大きなその手に千冬さんの顔を見れば、彼の顔はなにもないようにまっすぐに両親のほうへと向いたまま。
「……確かに、理子さんが女将になれるかどうかは分かりません」
「え!?」
って、えぇ!?フォローなし!?
そこは『そんなことありません』とか、嘘でも言って……いや、そういうこと言うような人じゃないか。
けどそれにしたって、そんなにズバッと言わなくたって。
「働き始めた頃は気も遣えなくてふてぶてしくて……それはそれはダメでして。俺も何度叱りつけたことか」
「ちょっと!余計なこと言わないでくださいよ!」
確かにそうだったかもしれないけど!親の前!
鼻でフフンと呆れたように笑いながら言う、その手はまだ重ねられたまま。
「けど、時々すごくいい笑顔をするんですよ。誰かの為になにかが出来た時、すごく嬉しそうに笑うんです」
「え……?」
千冬さんの一言に、目の前のふたりは不思議そうに首を傾げる。