恋宿~イケメン支配人に恋して~
「旅館に大切なのは、おもてなしの心です。良い料理も景色も、もてなしたいと思う心から生まれるものだと自分は思っています。そんな中で、誰かのために自分に出来ることを探す理子さんは、適任だと」
「理子、が……」
「気持ちも表情も不器用な人だと思います。世間知らずで、まだ想像でしかなくて、でもそんな彼女が一所懸命にやろうとする姿に魅力があるのだと思っています」
不器用で、世間知らず。だけど、それでも、そこも含めて見てくれている。
「理子さんなら大丈夫だと、信じてます」
真っ直ぐな目で、信じてくれている。
千冬さんのその心が、嬉しくて愛しい。
「それに、女将として働くのが無理だったら好きなことをしてもらって構いません」
「え?」
「俺が旅館をしているからと言って、一緒にいる彼女にまでそれを強制するわけじゃありませんから。旅館の力になれなくても、捨てたりしません。それでも、理子が良いんです」
それでも、私がいい。
はっきりと、しっかりと言い切ってくれた。
『あの旅館で働けない、女将になれる可能性のない女に用はなしですか!』
『まぁな』
……さっきは、あんな言い方していたくせに。
どうしてこう、いざって時は言ってくれちゃうんだろう。嬉しくて、たまらないよ。
「ですから、どうか……彼女をこちらに預けて貰えませんでしょうか」
正座のまま頭を下げた彼に、私もそのままでは居られず同じように頭を下げた。
しっかりと握られた手に、一緒にいたいという思いを重ねるように。
「さすが、よく出来た人ねぇ」
ふふ、と笑いながらつぶやいた母の声に顔を上げると、目の前の父は少し面食らったように、けれど納得は出来ないといった複雑な顔をしている。
母はそんな父の顔がおかしかったのだろう。くすくすと笑っている。