恋宿~イケメン支配人に恋して~
「だ、だが旅館経営となればだな……お、大女将にいびられたり……」
「そこは大丈夫です。うち大女将いないので」
「あら、そうなの?」
なにかしら言いたいのか、ケチをつけるように言うものの、隣の千冬さんは同じく顔を上げてあっさりと否定する。
「5年ほど前に両親は亡くなっていますので。自分もそれを機に旅館を継いだんです」
「あら……ひとりでだなんて大変ねぇ」
「いえ。親の代から支えてくれる沢山の従業員のおかげです」
笑顔で言った彼に、こういう話に弱い父は何かを言いたそうにぐっと堪える。
「だが丸め込まれないぞ!そう簡単には許さないからな!」
「はい、今すぐとは言いません。僕たちもまだ付き合ったばかりですから。少しの間見守っていただければと思います」
「えぇ。そういうことなら、ね。頑張ればいいじゃない」
「お母さん……」
納得してくれた母から、隣の父へと視線を移す。悪くない、けど納得するのも気に入らない、けど、でも……と悩んでいるのが顔を見ただけで読み取れる。
「っ〜……少しの間だけだからな!」
搾り出すようなその言葉は、父の精一杯の許容。けど、今の私たちには充分すぎる一言。
「はい、ありがとうございます」