恋宿~イケメン支配人に恋して~
いつもはあまり心を表すことのない千冬さんの気持ちを、知ることが出来た気がした。
信じてくれていること、私だから側にいてくれること。
あんなにもまっすぐに、人に伝えられるほど。
「はぁ……疲れた」
「お疲れ様でした」
帰りの新幹線のなか、座席に座りぐったりとする千冬さん。その疲れ切った顔は、先程の凛々しい顔とは真逆だ。
「あー……緊張した」
「えっ、全然そうは見えませんでしたけど」
「バカ。彼女の親に会うのに緊張しない男がいるかよ。口から心臓出るかと思った」
千冬さんも緊張するんだ……。
意外に感じるものの、深く息を吐く様子から、よほど緊張していたのだろう。
「すみません、父が頑固で」
「それだけ娘が可愛いってことだろ。無愛想でふてぶてしい娘でも、な」
「……一言余計です」
でも、言われてみればそう。あれだけ渋る父の態度はきっと、私を思ってくれているからこそ。
そう思うと少し申し訳なくもなるけど、尚更頑張りたいとも思う。
「帰り際、お母さんも言ってたよ。『あの理子が自分からやりたいことを見つけるなんて珍しいことだから、親として精一杯見守る』って」
「えっ、本当ですか?」
「あぁ」
そんなことを言っていたんだ……なんだかちょっと恥ずかしい。
照れ臭く下を俯くと、足元には家から持ってきた私の荷物が入ったボストンバッグ。頭上の荷物置き場にも、キャリーバッグが入れてある。
洋服とか必要なものだけ持ってきたつもりだけど、結構な荷物になったなぁ。
そんなことを思いながら足元を見ていると、トン、と右肩に何かが乗る感触。
「ん?」
隣を見れば私の肩に寄りかかるように頭を預ける千冬さん。甘えているようなその仕草に、胸がきゅんと鳴る。