恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……あの、千冬さん」
「なに」
「私がもし女将としてやっていけなくても、捨てないんですか?」
「あぁ。さっきも言っただろ、好きにしていい。仲居の仕事が無理で、それでも旅館に居たいなら掃除でも売店でも仕事はいくらでもあるしな」
仲居として働く私ではなく、私自身を見て想ってくれている証のその言葉に、嬉しさは堪えきれない。
その気持ちから、隣に座る彼の右手にそっと左手を絡めるように手をつないだ。
「……なんだよ、いきなり」
「……なんとなく、です」
手をつないだ意味は、上手く言葉には表せられない。
だけど、重ねてくれた手に感じた心強さと愛しさを、彼にも分け合うように。無骨な大きな手を、ぎゅっと握る。
……頑張ろう。
まだまだ、不格好で上手くいかないことばかり。仲居としても、彼の恋人としても。
だけど、きっと大丈夫。導いてくれるこの手がある。信じてくれる彼がいる。
それだけで、大丈夫だって思える。
こぼした笑みに、千冬さんもつられるように笑う。そんなふたりを乗せて、新幹線はあの街へ向かい走り出した。