恋宿~イケメン支配人に恋して~
*5

16.目隠しをほどいて






「いらっしゃいませ、ようこそ新藤屋へ」



眩しい太陽が照らす夏の日の午後。

クーラーの効いた涼しい旅館内に踏み込んだ瞬間、笑顔になるお客さんたちに、私は八木さんと並び深くお辞儀をして出迎えた。



「いやぁ、暑い暑い。クーラーが効いてる場所は天国だねぇ」

「ここ数日また一気に暑くなりましたものね。それではこちらでチェックインをどうぞ。大きなお荷物は先にお運びします」



今日のお客さんのうちの一組である初老の夫婦に、にこやかに言う八木さん。

その言葉に合わせるように私はふたりが持ってきたキャリーバッグを受け取り、一足先に客室へと向かう。



初老の夫婦は、確かリピーターの松永様。部屋は……4階の408号室だ。

手元の宿泊リストでそう確認をすると、キャリーバッグをゴロゴロと鳴らしながらエレベーターに乗り4階のフロアへ向かう。



見上げた空は太陽が照らし、夏らしい晴れ空。けれど、東京と比べれば多少涼しく過ごしやすい気候だと思う。

7月も下旬に差し掛かり、夏休みになったこともあり更に忙しさを増す最近。一気に客数も増え、仲居は皆動きっぱなしだ。

まだ客室への案内が出来ない私は、こうして誰かのサポート役として荷物を運ぶことしか出来ないけれど。



部屋に荷物を置き、フロントへ戻ろうと廊下を歩く。まだあまり埋まっていない4階は他のフロアと比べると比較的静かだ。



「失礼致しました」

「……あ」



すると廊下の奥の部屋から出てきたのは、千冬さん。客室へ案内した後なのだろう、この暑い季節にも変わらないスーツ姿だ。



私たちも忙しいけれど、それ以上に忙しいのは千冬さん。毎日休みなく朝から夜まで働いている。

仲居や他の従業員には忙しくてもきちんと休みを入れるけど、自分は休まないんだよね。

『ブラック企業だなんて言われたら大変だからな』なんて言っていたけど、彼が一番頑張っていることを知っているから皆寧ろ心配しているのに。



……千冬さんが苦労を分けてくれるように、私も早く仕事が出来るようにならなければ。

背の高い後ろ姿にそう決意をしていると、不意にこちらに気付いたように千冬さんは私を見た。


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