恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あー……まぁ、それなら仕方ないですね。わかりました、どうにかします。はい、お大事に」
そして、電話を終えるとまたこちらへ向き直す。じっと見るその黒い瞳に、ビクッと背筋が伸びてしまう。
「よし、なら交換条件だ。300万の花瓶の件は忘れてやる。なかったことにする」
「え!?い、いいんですか!?」
「あぁ。その代わり、一ヶ月間ここでタダ働きしろ」
「へ?」
一ヶ月……タダ働き?
私が、ここで?
その言葉の意味がすぐに理解出来ず、きょとんと首を傾げてしまう。
「今の電話、うちの仲居頭の田中さんからでな。彼女から『事故にあって左腕を軽く骨折したから一ヶ月ほど休みがほしい』と連絡があった」
「は、はぁ……」
「幸い今はオフシーズンだから客数は少ない。それでも当然0ではないし、ただでさえ人手はギリギリだ。そこで、お前がうちを手伝うなら、300万のことはチャラにしてやってもいいっていう提案だ」
い、いやいや……待って。ちょっと待って。
300万弁償しなくて済むのはありがたいけど、でも仲居として働くなんて……無理でしょ、絶対。
「でも私、接客業なんてコンビニのレジくらいしかやったことない……」
「そんなのやればなんとかなる。バカでもクズでも人手がないんだから仕方ない」
ば、バカ!?クズ!?
この人どれだけ私のことをバカにしたら気が済むわけ!?
やったことないことを、ましてやこんな人の下でやるなんて無理!ぜーったい無理!