恋宿~イケメン支配人に恋して~
17.キミにあげたい
両親にも、千冬さんの幼なじみにも渋々ながらも認めてもらい、改めて頑張ろうと決めた。
今は、自分に出来ることから精一杯。
……そう、精一杯、です、が。
「違う」
「……」
とある日の昼間。ひと気のない客室のとある一室では、千冬さんの厳しい声が響く。
「何度言ったら分かるんだ?部屋に入る時は、引き手に手をかけ少し開けてから、木枠に手をかけて完全に開ける。一度に勢いよくスパーンと開けるやつがどこにいる!」
「いいじゃないですか、そんなのどっちでも……」
「よくないから言ってるんだけどなぁ?あぁ?」
「いたたたた」
口答えをする私の頬をつねる千冬さんは、支配人の厳しい顔。
というのも、そう。部屋に案内した時やお客さんに呼ばれた際、座敷に上がって対応して……とやるのも仲居の仕事のうち。
そのためには座敷にもいろいろとマナーやルールもあるらしく、それを昼休みの時間を使って千冬さんから直々に教わっているわけ、だけれど。
襖を開ける前から部屋に入るまで、そこから動いて出るまで。その間の動きがあまりにも多く、覚えきれず怒られてばかりだ。
「ほらもう一度、始めから」
「……はーい」
言われるがまま、また和室の前の廊下に正座し一から動きを始める。