恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ん〜……」
それからどれくらいが経っただろうか。集中して読んでいた本から顔を上げ、私はうーんと伸びをした。
きりのいいところまで読み終わったし……ちょっと休憩。そのままゴロンと寝転がれば、目の前にあるのは天井の木目。
久しぶりにこんなにしっかり文字読んだかも……。
ふぅ、と溜息をついて目と頭を休めていると、不意にガチャ、と開けられた部屋のドア。
千冬さんかな?そう思い寝転がったまま視線をドアのほうへ向ければ、逆さまに映る視界に入り込むのは、千冬さんではなく明るい茶髪の男……宗馬さんだった。
「……あれ、宗馬さん」
「うわ……なにしてんの」
『うわ』って。人の顔見て『うわ』はないでしょ。
露骨に嫌な顔を見せた彼に、私は体を起き上がらせるとテーブル前に座りなおす。
「勉強です。千冬さんから命じられて」
「へー?その小さな脳みそに入る知識なんてあるんだ?」
「本当いちいちムカつく人ですね」
不機嫌そうに反応をする私を見るのが面白いのだろう。嫌味を言ってけらけらと笑う宗馬さんは、見れば私服に黒いエプロン姿。
ドアの外には運んできたらしい台車が置かれている。
「宗馬さんこそ、なにしてるんですか」
「仕事だよ、仕事。ちょっと失礼」
私の横を通ると、部屋の床の間に飾られていた花瓶を手に取る。そして中の花を捨てると、廊下から運んできた花を生け始めた。
そういえば、宗馬さんがいつもここの花を生けているって言っていたっけ。本当だったんだ。
疑っていたわけではないけれど、いざ実際にこうして見ると驚いてしまう。
そんな私の視線には気付く様子もなく、手慣れた様子で宗馬さんは花を一輪一輪丁寧に飾る。