恋宿~イケメン支配人に恋して~
「花屋って花を売るだけってイメージなんですけど、こうやって生けたりもするんですね」
「まぁね。店によってはそういうサービスしてる花屋もあるし、あるっちゃあるんじゃないの。うちは基本的には売るだけだし、このサービスも新藤屋だけ」
「そうなんですか?」
「ここは代々女将が花を生けてたけど、今はいないから。代わりに俺が、花持ってきたついでに飾ってるってわけ」
話すうちにあっという間に床の間には紫と白の花が、葉や枝とバランスよく飾られ、夏らしい涼しげな印象を見せた。
「わ……綺麗」
「花は生けた人の心を映す、ってね。俺がやれば綺麗に出来て当然」
「……自分でそういうこと言わなければいいんですけどね」
ふっと鼻で笑うとその手は私の頭にストンッとチョップを食らわせる。
「いたっ!なにするんですか!」
「生意気。さっさと勉強続ければ」
「続けますよ!言われなくても!」
成人男性の大きな手から食らわされたそのチョップは、重く当然痛い。
その痛みに頭をさすりながら怒るものの、彼はそんな私を気にとめることもなくスタスタと部屋を出て行ってしまう。
あの人本当に私のこと嫌いだなぁ……!いちいち反論しちゃう私も悪いんだけどさ。
けど、やっぱり嫌な感じ。
ちら、と見れば床の間には綺麗に飾られた花。
花の名前や飾り方など、私には何一つ分からない。けど、その手の繊細な動きとこの美しい花を見れば、それだけで充分彼の丁寧さは感じられる。
「花は生けた人の心を映す、か……」
だとしたら、きっと彼は本当は嫌な人ではないのだろう。
こんなに綺麗に、花を魅せることができるのだから。