恋宿~イケメン支配人に恋して~
「えーと、醤油?」
「ん。醤油」
「醤油を注文し忘れたらまずいんですか?」
「そう」
「えーと……」
な、なんというか、単語ばかりで一度で話が進まなくて面倒な人だな……。
確かに八木さんがあれこれと面倒を見てあげたくなるタイプの人かもしれない。ついでに言うと、私はこういうタイプの人とは気が合わないと思う。
「島崎さん、分かりやすく説明してもらえませんか」
「え?あ、あぁ……それがさ、醤油の在庫ないのすっかり忘れててさぁ。今日金曜だろ?土日は業者さんが休みだから届くのは早くても月曜……今日の料理も醤油は必須だし、でもこれから仕込みもやらなきゃならないしで買いに行く暇もないんだよ」
「あー……」
島崎さんに説明してもらえれば一度で済んだ。
「どうしよー」と頭を抱えている彼の前には、これから仕込みをしなければならないのだろう魚や野菜が大量に用意されている。
今日は客数も多いし、その分仕込みも大変だよね。なら……。
「私、買ってきましょうか」
「え!?いいのか!?」
「はい。おつかいくらいならちゃんと出来ると思います」
私の提案に、島崎さんはそれまでしょげていた顔を上げ私の手をがしっと握る。
「じゃあお言葉に甘えて頼むよ!少し重いけど……まぁ大丈夫だろ!」
「で、どこまで買いに行けばいいんですか」
「石段街の方にさ、『矢沢商店』って店があってな。うちはそこの醤油をいつも使ってるんだよ」
「じゃあちょっと街まで出て買ってきます」
「あぁ!『いつもの醤油』って言えば通じるから、それを3本な!これ代金!」
島崎さんからお金を受け取り、急いだほうがいいだろうと小走りで厨房を出た。