恋宿~イケメン支配人に恋して~
……が。
矢沢商店での買い物を終えた私は、ひとりで来てしまったことをひどく後悔した。
なぜなら、『いつもの醤油』と言って出された醤油は一本あたり何リットルあるのだろうと思うほど大きく、さらにそれを3本も持たなければならず……。
「っ……重っ……!!」
お店を出たばかりだというのに袋を両手に持つ私の腕はすでに限界で、ぜぇぜぇと肩で息をするほどつらいのだから。
「ありえない……こんな重いの、任せるなんて……」
業務用なのだから当然と言われれば当然だけれど、こんなに重いとは思わなかった……!
あの筋肉がっちりな体型の島崎さんが『ちょっと重い』って言った時点で気付くべきだったかもしれない。
これで、バス停まで歩いて旅館まで……大丈夫かな。でも、行くしかない。
「あれ、なにしてんの」
「へ?あ、」
すると突然かけられた声に顔を上げると、そこには昨日同様黒いエプロンをかけた宗馬さんがいた。
なんでここに、と問いかけようとしたけれど、そもそも彼の家である花屋はこの温泉街にあると言っていたことを思い出す。
問いかけようとものなら『地元の人間が地元にいちゃいけないわけ?』とうるさく返されるのが想像出来て私は言葉を飲み込んだ。
相変わらずふわふわとした茶髪にピアス、細身のパンツ……と、花屋というよりホストに近い。そんな彼は、垂れた目で少し意外そうに私を見る。