恋宿~イケメン支配人に恋して~
「なにそれ、筋トレ?」
「なわけないでしょ。どう見てもおつかいです」
「いや、どう見ても筋トレでしょ。それか罰ゲーム」
確かに……こんなに重いものをひとりでひぃひぃ言いながら歩いていれば、罰ゲームくらいには見えてしまうかもしれない。
ていうか、正直今は彼の相手をする余裕なんてない。
「……悪いですけど、急いでるので」
「あー、バスで新藤屋戻るの?」
「そうですけど」
「んじゃついでに千冬に持って行ってほしいものあるから、頼むわ」
持って行ってほしいもの、って?
首を傾げて見ると、宗馬さんは「あそこまで取りに来て」とすぐ近くの建物を指差す。
見ればそれは茶色い小さな建物で、開かれたガラス戸に緑色の屋根。入り口から中にかけてずらりと花や苗が並べられているお店。
看板に『フラワーショップ小川』と書かれたそこは、そう、宗馬さんの家だろう。
重い袋を必死に運びながらお店の前へとやってくると、レトロな外観にぴったりの、小さな照明や店内にも並んだ花々が可愛らしく美しい。
わ……すごい、どれも綺麗。
一歩店内に踏み込むと、花の甘い匂いがふわりと香った。
「いらっしゃいませー……って、なになに!?宗兄それ彼女!?」
「え!?」
すると、ひょこっと姿を現したピンクのエプロンをつけた小柄な若い女の子は、宗馬さんの後ろを歩く私を見て目を丸くする。
「違うから。俺がこんなに趣味悪いわけないじゃん」
「ちょっと!どういう意味ですか!」
ところがすかさず突っ込まれる否定は、なんともまた失礼なもの。
それを聞いているのかいないのか、女の子は茶色いポニーテールを揺らしながら「お母さーん!」と大きな声でお店の奥へと向かって行った。