恋宿~イケメン支配人に恋して~
「家族仲良いんですね」
「あの二人がうるさいだけ」
「それで、持って行ってほしいものっていうのは」
「あー、これこれ」
ふたりになり一気に静まり返ったその場で話を本題に戻し問うと、宗馬さんは思い出したようにガラスケースの中から何かを取り出す。
見ればそれは、大きな花瓶に綺麗に生けられた見事な花で……。
「わぁ、綺麗……」
「でしょ。千冬から『旅館の入り口に飾るのにデカめの花がひとつ欲しい』って言われてさ。俺の力作」
「確かにこれ入り口に飾ってあったら素敵……って待って!ちょっと待って!!」
確かにすごいと思うけど……けど、これを一緒に持って行ってほしいってことでしょ!?
「無理に決まってるじゃないですか!さっきの私見てました!?これだけで限界なんですよ!?」
「いや、大丈夫でしょ。醤油背中に担いで花瓶持てば行けると思う」
「いけないと思う!!」
嫌がらせにもほどがある!!
こんな無茶振りされるくらいなら、あそこで断ってさっさとバス停行けばよかった……!
全力で断る私に、宗馬さんはふーんとつまらなそうに頷く。
「無理ねぇ……なら俺が直接運ぶしかないか。んじゃ、ついでにこの大荷物も運ぶかな」
そして私の頭をガシッと掴むと、引きずるようにしてその場を歩き出した。
「へ?え?大荷物?」
「キミだよ、キミ。お荷物ちゃん」
「……なんかそれ、違う意味にも聞こえるんですけど」
「気のせいじゃない?はい、さっさとその車の助手席乗って。俺あの花瓶車に乗せるから」
花屋を出て、横の細道から建物の裏に回ると、そこには車が数台停められた小さな駐車場。
その中の一台、ボディに『フラワーショップ小川』と書かれたオシャレな赤い軽ワゴンに乗るように彼は指図をする。
……つまり、送ってくれるということ?
私がこの荷物に加えあんな大きな花瓶なんて運べるはずもないと分かっていたのだろう。分かっていて言ったのはきっと、意地悪ではなくて『送ってあげる』と素直には言えない彼の精一杯の口実。
……優しいんだか意地悪なんだか、よくわからない人。俗にいうツンデレだ。それも千冬さん以上の。
でも荷物が重くて大変なのは事実だし、ここは大人しく甘えておこう。その車の後部座席に荷物を積むと、私は助手席に乗り込んだ。