恋宿~イケメン支配人に恋して~
「花は生けた人の心を映す、って、宗馬さん言ってたじゃないですか」
「え?あー……うん」
「なら私は、宗馬さんは繊細で丁寧で優しい人なんだって思います」
旅館に飾られた花が、店先に彩られた花が、彼の心を教えてくれる。
「宗馬さんが生けた花からはそれがちゃんと伝わるから、だから千冬さんも宗馬さんに旅館の花を頼むんだと思います。下手だったり適当に感じられる花だったら、友達でも頼まないです」
その荒れた手と、不器用な優しさが、彼の本音を教えてくれる。
「人が『綺麗だ』って言えるものを作り上げるって、きっと簡単じゃないです。それだけでちゃんと、宗馬さんだって努力してることわかるから」
きちんと努力をして得たものがあるから。だから、なによりも綺麗に生きる。
「なにもなく、ない」
千冬さんが、あの場所が教えてくれた。今の私には、伝える言葉を持っている。
言い切った私に、彼は前を見たまま驚いたように目を丸くする。
「……そういうこと言うの、意外」
「私も、意外だと思います」
無愛想な私は自分の気持ちなど言わないように見えていたのだろう。まぁ、あながち間違いでもないけれど。
「私もなにもなかったんです。全然ダメでからっぽで、なにもかもが嫌になってここに来た。……でもあの場所で、自分にも出来ることが沢山あるって教えてもらったから。だから、宗馬さんにもお裾分けしてあげます」
千冬さんからもらった気持ちを、自分ひとりで終わらせない。迷うこころがあるのなら、分けて伝えてあげたいから。
こぼれた笑みでそう呟くと、宗馬さんはふっと笑う。
「お裾分け、ねぇ。生意気に」
「それほどでも」
「褒めてないけど。……まぁ、千冬がキミを気にいる理由がちょっと分かったかも」
千冬さんが、私を気にいる理由?
それって、と知りたくて首を傾げるものの宗馬さんは教えることなく車を走らせる。