恋宿~イケメン支配人に恋して~
「色気も可愛げもなくてこんなガキのどこがいいだろうと思ってたんだけど」
「なっ!?」
ってまたそういう余計なことを言う!
「……そう言うけど、家族が『彼女がきた』ってあれだけ騒ぐってことは相当彼女いないんですね」
「俺は付き合っても家に連れて行かない派なだけですー。だから物珍しいだけですー」
「強がらなくてもいいんですよ?」
「うるさいんだけど。山の中に荷物ごと捨てていくよ?」
先ほどまでの空気はどこへやら。またギャーギャーと騒ぐうちに車は山を抜け、新藤屋へと着く。
正面のお客さん用駐車場に止まる車に、私と宗馬さんはシートベルトを外し車を降りた。
「はい、お客さん乗車賃5000円」
「私ただの荷物ですから。送料なら着払いで支配人に頼んでください」
最後までそう色気のない会話を繰り返し、後部座席から袋を降ろそうとスライド式のドアを開ける。
すると、走っているうちに醤油は転がりドアの目の前にまできていたのだろう。開けた瞬間に重い醤油のボトルは私の足へとゴンッ!と落ちた。
「いっ〜……!!」
「わ!?なに今の音!」
「足に、醤油……落ちた……」
薄い足袋に草履というガードの少ないなか、足の指を思い切り潰され、あまりの痛みにその場にうずくまる私にさすがの宗馬さんも驚き駆け寄る。
「大丈夫!?爪割れてない!?」
「たぶん……でも、痛……」
その答えとは逆に、白い足袋にじんわりと滲む赤い血。
それを見ると宗馬さんはなにを思ったのか、私をお姫様抱っこの形で抱き上げるとその場を歩き出した。
「えっ……宗馬さん!?」
「中で誰かに止血して貰いな。よっぽどだったら一回病院行くこと」
「だ、大丈夫ですから!降ろして……」
まさか彼に抱えられるとは思わず驚き動揺する私に、宗馬さんはそのまま旅館の中へと入ると、フロント前のソファに体を降ろした。
「理子!どうかしたのか?」
「千冬さん!」
そこに駆け寄ってきたのは、休憩していたのかスーツのジャケットを脱ぎシャツにネクタイ姿となっている千冬さん。
宗馬さんが私を抱き上げるのを見ていたのだろう、何事かとひどく驚いたようにこちらを見る。