恋宿~イケメン支配人に恋して~
その夜。仕事を終えたあとの私は、私服姿で別館にある自分の部屋の1つ上のフロア……4階にいた。
目の前には、茶色いドア。そう、以前酔いつぶれた彼を送ってきた時以来初めて、千冬さんの部屋へやってきたのだ。
確か今日は千冬さんはもうあがって、明日は朝からだからこの部屋にいるはず。
昼間の八木さんの話を聞いてから、彼のことを考えれば考えるほどに会いたくなってしまって、けれど仕事中はお互い忙しく顔をまともに合わせることも出来ず……結果こうして会いに来たというわけだ。
千冬さんからも一応、『部屋にはいつでも来ていい』と言われていたし。
でも、来たはいいけどいざ来ると緊張する。なんて言えばいい?『会いたくて来ちゃった』、……とはさすがに言えない。恥ずかしすぎる。
けど、せっかく会いに来たんだし……よし。
意を決してコン、コン、と恐る恐るドアをノックすると、少ししてから小さくドアが開けられた。
「はい?……なんだ、お前か」
「……こんばんは」
「どうかしたか?なにかあったか?」
「いえ、その……、!!」
姿を現した千冬さんは見ればお風呂上がりらしく、旅館の浴衣に身を包み黒ぶちの眼鏡をかけている。
せ、セクシー……!!
少し湿った黒い髪と、浴衣から覗く鎖骨がなんとも無防備で、いつもの警戒心の強そうな彼の姿とはまるで真逆だ。
「め、眼鏡かけるんですね」
「いつもはコンタクトだからな。ま、いいや。入れば」
「あっ、はい……お邪魔します」
招かれるまま部屋に入ると、そこは以前来た時と同じ本や家具など最低限のものばかりの部屋。
テレビはついているものの、仕事もしていたのだろう机には書類が広げられている。