恋宿~イケメン支配人に恋して~
「すみません、仕事中でした?」
「いや、いい。ちょっと書類片付けてただけだから。適当に座っていいぞ」
部屋の奥に後付けしたらしい小さなキッチンで、千冬さんはカップにコーヒーを入れるとお湯を注ぐ。
向けられた大きな背中。いつもはスーツで隠れているけれど、細く見えて意外としっかりと筋肉のついたその後ろ姿に、つい目が奪われる。
『やきもちですよねぇ』
思い出すのは昼間の、八木さんの言葉と初めて彼が見せた顔。
「……、」
無意識に手を伸ばし、私は彼の背中に甘えるようにぎゅっと抱きついた。
「……理子?」
小さく名前を呼ぶ声から、驚いているのがわかる。
「私、千冬さんのおかげで変われたと思うんです」
「え?」
「迷った時に千冬さんの言葉に救われて……今度は、それを他の人にも分けてあげたいって思うようになりました」
適当に、なげやりに過ごしていた日々とは違う。不器用でも向き合って、自分の感じた支えのほんの一部でも伝えて分けてあげたい。
そう思えた自分に少し驚いている。
だけどそれらは全て、千冬さんなしではありえなかったことだから。
「千冬さんの、おかげなんです」
今の私の中心は、あなたで作られているんだよ。
「……だから、その、」
「つまり?」
「…………千冬さんのことが、好きです」
精一杯の勇気で、呟く気持ち。恥ずかしさに耳まで真っ赤になっているだろう自分の顔を隠すように、私は千冬さんの背中に顔をうずめた。