恋宿~イケメン支配人に恋して~



「……困る」

「え!?なんでですか!」

「困るだろ。……可愛すぎて」



すると千冬さんは抱きつく私の腕をほどきこちらを向くと、真っ赤になった私の顔を覗き込む。



「わっ……み、見ないでくださいよ!」

「いいだろ、どれ、その顔もっと見せてみろ」

「ぎゃー!いやー!ドSー!」



喚こうが顔をそむけようとしようが、彼は容赦なく私の顔を掴みまじまじと見つめる。

そしておかしそうに笑うと、顔を近づけそっとキスをした。



「ん……」



重なる唇から、少し香る煙草の匂い。少し冷えたその体温が、触れるたび熱い私の体に溶けていくのを感じる。

そしてそのまま、キスをしながら千冬さんは私を床に座らせそっと押し倒す。



「……理子、」



低い声は甘く名前を呼んで、頰に、耳になぞるように口付ける。

長い指先が首筋を撫でて、私の鎖骨に触れた……その時。



「支配人、起きてますかー!?306号室のお客様が酔っ払って大暴れで大変なんです!来てくださーい!!」



バイトの従業員のその声とともに、ドンドンドン!とドアを叩く音が響き渡り、私と彼は一気に現実に引き戻された。



「っ……なんでまたこういうタイミングで……」

「ま、まぁまぁ、仕方ないですよ」

「くそっ……今行く!少し待ってろ!」



ふたりでくっつくどころではなくなり、千冬さんは渋々体を離すと壁にかけてあったスーツを手に取った。



「じゃあ、私部屋に戻ります」

「あぁ。……理子」

「はい?」



一度横になった体を起こしながら顔を上げると、私の隣にしゃがんだ千冬さんからは、額にちゅ、と優しいキスが落とされる。



「続きはまた今度、な」

「……はい」



……困る、はこっちのセリフだよ。

そうやって、不意に触れたり笑顔を見せたりするから、いちいちドキッとしてしまって、困る。



好きすぎて、困る。







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