恋宿~イケメン支配人に恋して~
18.スタートライン
「ん?これなに?」
千冬さんの部屋に度々来るようになって、半月。
それは8月半ばのある日、昼間の暑さとは対照的に涼しい風の吹く夜のこと。
今日は宗馬さんは仕事が忙しいとかで泊まりにはこない。というわけで夕方までの勤務だった私は、ラストの時間帯まで働く千冬さんの帰りをこの部屋で一人待っていた。
そんななかで、落とした携帯を拾うのにたまたまのぞいたソファと棚の間。
そこにキラリと光る小さななにかが目に入り、私はつい手を伸ばしそれを取った。
なんだろう、ただその気持ちひとつで変な疑いも特になかったけれど……手にとったそれは、ひとつのシルバーのリング。
「指輪……?」
なんの変哲もないシンプルなデザインに、内側にはひとつ埋められた石と刻まれた『C&A』の文字。
指輪……って、これってもしや、ペアリング?
誰と、ってもちろん千冬さんと前の彼女の、ペアリング……。
「っ!!?」
って、えぇ!!?
「ただいまー」
「え!?あっはい!おかえりなさい!!」
驚いていると、突然聞こえた玄関の音と千冬さんの声に、思わず手元の指輪をバッと手の中に隠してしまう。
「あー、疲れた……一人で待たせて悪かったな」
「い、いえ全然。あっ夜食食べます?」
「あぁ。頼む」
動揺をさとられぬよう、慌てて話題をそらすように私は台所へ立った。