恋宿~イケメン支配人に恋して~



何度か通ううちに部屋の扱いも慣れたもので、夜食にオムライスでも作ろうとお皿にご飯を適量盛る。



ついポケットにしまってしまったけど……ペアリングって、つまり、元彼女とのものだよね?

何年も前に別れたらしいけど、でもまだ指輪を持っているってことは、大切にしてるってこと?



……そもそも、元彼女ってどんな人なんだろう。

以前八木さんから大筋の話は聞いたけれど、東京からこっちに来て、途中で断念して帰ってしまった人としか聞いていない。

もしかして、千冬さんの中にはまだ気持ちがあったりする?

……そんなことない。そう信じたいけれど、断言なんてできない。



思えば私、まだ千冬さんのことは知らないことばかりだ。



「理子」

「はい?わっ」



すると突然、後ろから私をぎゅっと抱きしめるように千冬さんはくっつく。長い腕が力強く、少し熱い。



「お前、風呂入った?いい匂いする」

「あ、はい。自分の部屋で入ってきました」

「別にここの使っていいのに」



じゃれるように、髪やうなじをくん、と嗅ぐ。その仕草がくすぐったくて、少し可愛い。

近付いた顔に目と目が合うと、ふたりそっと唇を重ねた。



愛しい。好き。そんなこころを小さく刺す、ポケットの中にある小さな指輪。



大丈夫、信じてる。だけど、やっぱり不安。

その心のなかを、知りたい。

千冬さんにとって彼女はどんな存在で、今もその心にいるのか。聞きたい、けど聞けない。



本人には聞けない千冬さんのこと。なら、一番知っていそうなのは……。









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