恋宿~イケメン支配人に恋して~





「……ちょっと、さっきから何?」



翌日の午後。お昼休憩の時間帯に、私がドアの隙間からじーっと見る先には、応接室で花瓶に花を飾る宗馬さんがいた。

その顔は、見つめる私を怪しむように。



そう、千冬さんのことを聞くならと私がやって来たのは宗馬さんのもと。

千冬さんには『あんまりふたりになるな』と言われたけど……どう考えても、元彼女のことを知っているのは宗馬さんしか思いつかない。



「珍しいじゃん、そっちから寄ってくるなんて」

「……あの、聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」



どうでもよさそうに、とりあえず聞いておこうといった様子で、今日も黒いエプロンをかけた彼は花を飾り終え花瓶のまわりの水滴をそっと拭う。



「千冬さんの、元彼女のこと」



ところがその一言に一気に空気は変わり、垂れ目をキッと釣り上げて私をにらみつける。

うわ、一気に不機嫌になった。



「いやだ。思い出すだけで不愉快だしあいつの話なんてしたくない」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「い、や、だ!聞きたいなら千冬に聞けば?」



以前私に厳しく言った時以上に鋭い目つき。その表情から相当彼女のことが嫌いなのだろうと知る。

気にくわないのであろうことは想像していたけど……ここまで露骨に嫌っているとは。



「……千冬さんには直接聞きづらいから宗馬さんに聞いてるんです」

「は?そもそもなんでまた……」



私が無言で懐から取り出したのは、ひとつの指輪。そう、昨日部屋で見つけてからそのまま持ってきてしまったあの指輪だ。

それから私が訪ねてきた意味を把握したのだろう、宗馬さんは「そういうこと」と頷く。



「つーか、彼氏の部屋から元カノとの思い出の品持ち出すとか……引くわー」

「し、仕方ないじゃないですか!つい、咄嗟に、気になって……」

「へぇ?なら千冬がキミの部屋からパンツ持ち出しても引かないんだ?『つい咄嗟に気になって』って言われたら仕方ないよねって納得出来るんだ?」

「なっ!パンツと指輪は違いますから!」



でも宗馬さんが言っていることが正しいのは、分かる。自分だって勝手に物を持ち出されるうえにそんな勘繰られ方をされていたらいやだし。

でも、それでも。


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