恋宿~イケメン支配人に恋して~
千冬さんに黙って、元彼女のことを探ろうとかあんまりいいこととは思えない。
だけど、それでも知りたい。少しでも千冬さんに、近付きたい。
「……よし」
翌日、よく晴れた水曜日の午前10時前。
旅館の裏口からコソッと辺りを見渡し、辺りにひと気がないことを確認する。
千冬さんの姿はなし。よし、見つからないうちに出て、見つからないうちに戻る。そう決めて、バレないようにコソコソと旅館を出た。
こうも千冬さんに対しコソコソとしなければならないことに良心も傷むけれど、決めたのだから仕方ない。
そう旅館前のバス停からバスに乗り、石段街へと出ると、そこから歩き先日も来た花屋に向かう。
確かこの辺だったはず……。
記憶をたどりに街の端をキョロキョロと見渡すと、見つけた小さな建物。それは先日も来た、レトロな外観のフラワーショップ小川だ。
「……こんにちはー、」
開けられたままの戸から、顔を覗かせ小さく声をかける。看板に『open10:00/close18:00』と書かれている通り店はまだ開店直後のようで、中はがらんとしており誰もいない。
すると部屋の隅にあるドアがガチャリと開けられ、そこからはTシャツにデニムといったまだ完全にラフな状態の宗馬さんが姿を現す。
「お、きたきた。中入って」
「へ?あ、はい……」
中……?
言われるがまま彼が手招くドアへと入ると、そこは奥にある自宅と繋がっていたようで、広い和室へと通された。
「俺から話聞くなら高いよって言ったでしょ?それを体で払って貰うから」
「体で……って?」
「じゃ、とりあえず服脱いで」
「え!!?」
ふ、服を脱ぐ!?
体で払う、服を脱ぐ、それらからどんな手段でどれほどの額を支払うのかが一気に頭によぎった。
お、襲われる……いや、売られる!?
宗馬さんは私に興味なんてないだろうから、それを思うとそういう趣味のある人にそれなりの値段で売りつけて……!?
これはまずい。今すぐ帰りたい。
一気に吹き出す汗に、今すぐここから逃げる手段を考える。けれど続いて彼から手渡されたのは大きな紙袋。
「これ、は……?」
「制服。服脱いだらこれに着替えて、裏の駐車場に集合」
「制服って、もしや……イメクラですか」
「は?」
あれ?違う?
どうやら売り飛ばされるわけではないらしい。紙袋と宗馬さんの顔を交互に見る、私の不信感でいっぱいの顔から、彼は私が何を考えているかを察したらしく鼻でふんと笑う。