恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あ、準備出来た?」
「出来ました、けど……」
ところが、着替えを終え指定された通り裏の駐車場にやってきた私は、短いスカートとエプロンの裾を手で押さえながら歩く。
「スカート、短すぎじゃないですか!?」
「あー、奈緒はいつも丁度良さそうだからいけると思ったけどやっぱりダメだったか」
「妹さんならって……私とあの子見た目10センチ以上背違いますけど!?」
この制服は普段妹さんが着ているのだろう、私の背ではシャツの裾も短いし、スカートもエプロンの丈もかなりギリギリ。
ただでさえ普段あまりスカートを履かない私には、スースーして余計恥ずかしい。
妹さん、見た目150センチないくらいだもんなぁ……160センチある私とサイズ合わなくて当然。
そんな私を気にとめることもなく、荷物を積み終えたらしい宗馬さんは、先日も乗った赤い軽ワゴンのトランクをバン、と閉めた。
「それより時間ギリギリだから。とりあえず乗って」
「それよりって……」
「どうせ見えたところで得する人なんていないでしょ」
ってまたそういうことを言う!
あぁそうですね、悪かったですね私のパンツには価値もなくて!
腹を立てながら助手席に乗り込むと、宗馬さんも運転席に乗り先日同様車を走らせ始めた。
見れば、先ほどまではラフな格好をしていた彼も私の制服とお揃いの白いシャツにえんじ色のネクタイ、ズボン、黒いエプロンといった格好をしている。
……こうして見ると、見た目はいいんだけど。
千冬さんと並んでも劣らないくらい整った顔をしているだけに、この口の悪さは余計残念だ。
「制服なんてあるんですね。いつも私服だから知らなかった」
「こういう移動販売の時だけね。雰囲気作りの小道具みたいなもん」
「雰囲気作り……」
確かに言われてみれば、Tシャツにデニムよりよっぽどオシャレで目を引く。意外とこういうところも考えてやっているんだろう。
「毎年お盆や連休の時期にはこうやって移動販売してるんだけどさ、今日に限って奈緒の奴が『彼氏と東京に旅行〜』なんて遊びに行きやがって」
「仕方ないですよ。恋人がいるんですもん」
「はいはい、30歳独身男は黙って働きますよ」
しばらく走った先で、車を止めた。そこは少し広めの通り沿いで、そこそこ人が行き交っている。
「ここで売るんですか?」
「そ。ここは右に行くと住宅街で左に行くとお寺があるから、丁度よく売れる場所でさ。昔からのよしみで近隣の人にも許可とってあるし」
車から降りると、宗馬さんはトランクを開けしまってあったテーブルやバケツを並べ手早く花を広げた。