恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……はぁっ、」
空の色が、鮮やかなオレンジ色に染まる頃。
持ってきた花のほとんどが売れ、無事移動販売を終えた私と宗馬さんは、ふたり街角のベンチに座り体を休めていた。
お互いの手には自販機で買ったお茶のペットボトルを持って。
「疲れた……喉痛い、顔の筋肉痛い」
「喉も表情筋も普段使ってない証でしょ」
いつもと違う仕事に疲れから溜息をつくと、隣の宗馬さんはお茶をひとくち飲んだ。
ちら、と見れば、目の前の道を夏服の男子高校生が二人歩いていく。白いシャツに黒いズボン、そんな姿の男の子たちは、楽しげに話しながら道路を渡って行った。
「……高校生はお盆でも学校あるんですね」
「部活だの補習だのいろいろあるからね。ちなみにあれ、俺と千冬が通ってた所の制服」
「え!?そうなんですか!?」
パッと思い浮かぶのは、以前見た写真に映っていた金色に近い茶髪をして片耳にピアスを二つほど開けた千冬さんの姿。
千冬さんも、ああやってこの辺りを歩いていたのかな。幼い彼を想像して、小さく笑みがこぼれる。
「幼馴染って、いつから一緒にいるんですか?」
「気付いた時には一緒にいた、って感じ。親同士が仕事の関係で知り合って仲良くなって、自然と一緒にいることが多くて……千冬が東京に行った時も、俺も結構頻繁に東京行ってたからよく会ってたし」
そう思い出しながら語るその瞳は、懐かしむように目の前のオレンジ色を映す。
「千冬の親もすごいいい人でさ、俺のことも自分の子供みたいに可愛がってくれてて。俺も東京に行って千冬の様子見てくると、それをふたりに伝えたりして、芦屋親子の架け橋にもなってたわけ」
「千冬さん、自分からまめに親に連絡とかしなさそうですもんね」
「そうそう」
不意に浮かべた笑顔は、悲しげなもの。
「……けど、いきなりふたりとも亡くなって。あの時は、ショックだったし人間ってこんな簡単に死ぬんだって、ちょっと驚いた。千冬の涙を見たのも、あれが最初で最後だった」
千冬さんのお父さん、お母さん。ふたりの死は、誰にとっても突然で、悲しいもの。
その心を思うと、この心もまた締め付けられる。