恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……おはようございます」
「遅い」
後ろからのそ、と顔を見せながら言う私に、愛想のひとつもなく返されたのは短い一言。
「は?5時半って言うから5時半に来たんですけど」
「今は5時34分だ」
「……たかが4分すぎただけじゃん」
「なんだと?普通は5分前には来ておくものだろうが、余裕を持て余裕を」
ぼそ、ともらした不満に、その手はぎゅううと私の頬を強くつねる。
「いたいいたいいたいいたい!!!」
「何か言うことは」
「遅刻しましたすみませんでした以後気をつけます!!」
容赦のない力に叫ぶように言うと、ようやく離される手。
本気でつねったよこの人……最低!
じんじんと痛む頬をさすりながら涙目で睨む私に、彼は呆れたようにひとつ息を吐き「来い」と歩き出す。
「え?どこ行くんですか?」
疑問に答えてもくれず、やって来たのはフロントから少し歩いた先にある、小さな茶色いドアの部屋。
存在感の薄いその小さなドアを開けると、そこには小さな和室に小さなテーブル。座布団、テレビ……と普通の部屋のような光景が広がっていた。