恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あの、仕事大丈夫ですか?」
「一応。遅れて取った休憩時間の真っ最中だから」
「うっ……」
『ようやくの休憩時間にここまで来させやがって』と言っているようなその棘のある言葉に、ちょっと気まずい。
少し歩いた位置に止められていた、白いスポーツワゴン。
どうやらそれは千冬さんの車だったらしく、乗り込む彼に言われるがまま助手席に乗り込んだ。
「千冬さんも車持ってるんですね」
「あれば便利だからな。こうして街までバカ女を迎えに来るのにも」
「……すみません」
バカ女って……久しぶりに言われた気がする。
あまり使い込まれた様子のないシートに座りながら短いスカートの丈を必死に手で直す。すると千冬さんは気を遣ってか、後部座席に脱ぎ捨ててあったスーツのジャケットを私の膝にバサッと置いた。
「……ありがとう、ございます」
小さく呟いたお礼に、千冬さんはポケットから煙草を取り出すと火をつけ煙を吐き出す。
それはリラックスしている、というより自分の気持ちを抑えるように。
「で?なんでまた宗馬といたんだ」
「それは……その、」
「俺はこの前『あまり二人きりにならないように』って、言ったと思うんだが」
問い詰める、低くはっきりとした声。
……怒ってる。
私が千冬さんに、隠し事をしたから。手伝いをしていただけとはいえ、黙って宗馬さんとふたりでいたから。
『……お前、あんまり宗馬とふたりになるなよ』
あの言葉も、無視して。
「……宗馬さんに頼まれて、手伝いをしてました。この服はただの制服で、妹さんのサイズと私のサイズが合わなかったからこうなっただけで」
「俺には、お前が宗馬の言うことをただおとなしく聞くとは思えないけど」
「その代わりに、宗馬さんに聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
隠したり、さらに嘘をつくことも出来ず、ひとつひとつを正直に話して行く。
怒られるかも。引かれるかも。だけど。
『千冬に直接聞けばいい。ちゃんと答えてくれるはずだから』
「っ……これ!」
意を決して、私はポケットから取り出した指輪を握りしめ、千冬さんの目の前に差し出す。