恋宿~イケメン支配人に恋して~
「聞けばこうしてなんでも答えるから、宗馬には頼るな」
「……はい」
「あいつはいい奴だけど、だからこそそれを知ってるこっちは不安で仕方ない」
それは、きっとまた小さなやきもち。宗馬さんが本当は結構いい人だと、付き合いの長い千冬さんなら当然知っているのだろう。
だからこそ、宗馬さんと私になにかが起きるのかもしれない、と。
……そんなわけ、ないのに。
こんなに愛しいのも、こんなにそばにいたいのも、やきもちすらも可愛いのも、全部全部千冬さんだけ。
その気持ちを表すように、私も彼へぎゅうと抱きついた。
「……あの、旅館の裏にある建物、実家って聞いたんですけど」
「え?あぁ、そうだけど。今は使ってないけどな」
「住まないと家、ダメになっちゃいますよ?」
「あー……まぁ、そのうち、住むか壊すかは決めなきゃいけないとも思ってるんだけどな。なかなか」
千冬さんにしては珍しい、濁したような返事。
やっぱり、思い出が重すぎるんだろうか。ひとりで背負うには、つらいんだろうか。
それなら、
「……じゃあ、いつか私が住んでもいいですか」
「え?」
突然の提案に、その黒い瞳は丸くなる。
「私、いつまでも旅館に住み込みしてるわけにもいかないですし。どうせなら、宗馬さんが頻繁にくるアパートよりも、あの大きな家に住みたいです」
千冬さんが、幼い頃から過ごした家。ご両親や、おじいちゃんおばあちゃんが過ごした場所。
それらを、重いままにしておきたくない。
「まだふたりだけど、ここからまた始めましょう」
まだふたりだけの、今。だけどここから繋がって、いつか5人、6人と沢山の笑顔が溢れればいい。
寂しさの詰まった家に、笑い声が溢れたら。それだけできっと、素敵な毎日。