恋宿~イケメン支配人に恋して~
「そんなことより見て見て、千冬くん!ほら、理子ちゃんの髪!」
「え?……ほー、ようやく黒くしたのか。ずっと『染めろ』って言ったもんなぁ」
「別に千冬さんに言われたからじゃありませんけど」
素直には褒めてくれない彼に、私もふてぶてしく返す。そんな態度に笑いながら、千冬さんは私の頭をぽんぽんと撫でた。
「ま、確かにそっちのほうがいいな。茶髪よりは性格良さそうに見えるぞ」
「ってどういう意味ですか!見えるって!」
「そのままの意味」
話もそこそこにその場を去って行く彼に、残された私はぶぅと唇を尖らせた。
褒められているのか、バカにされているのか……。まぁ、悪くはないってことなんだろうけどさ。
そう思いながら視線を廊下を歩いていく千冬さんから広間へと戻すと、その場にいる人全員がニヤニヤと笑ってこちらを見ている。
「な、なんですか……皆して」
「いやぁ、朝から見せつけてくれちゃって〜」
「千冬さんと理子ちゃん、相変わらず仲良しだよねぇ」
どうやら今のやりとりを見て、その場はすっかり冷やかしムードになってしまったようで、八木さんまでもが「うふふ」と笑う。
「千冬くんも素直に褒めてあげればいいのにね!変なところ素直じゃないんだから!」
「いやいや、あぁ言ってもふたりになればベッタベタなのよ。千冬くん、そういうタイプよきっと」
「理子ちゃんもふたりになったら千冬くんに甘えたりするのかしら〜」
「なっ、なに言ってるんですか!ほら、早くしないと朝食準備遅れますよ!」
きゃっきゃとひやかす皆に、頬を染めて話を流そうとすると、そんな私を見て皆はさらに笑う。
皆してからかうネタにするなんて……!
恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。
けど千冬さんも、付き合う前と変わらず意外と皆の前でも普通に話すから、私も普通にいつも通りやりとりしてしまう。
これが周りから見ればイチャついてる、になるんだろうな……。
恥ずかしい、けど。からかわれるくらい、皆に認めてもらえてるって考えても、いいのかな。
……そう思うと、少し嬉しい。こうやって、また少しずつ皆に馴染んでいくのだろう。