恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あの、ここは?」
「従業員……主に仲居の休憩室だ。おい八木、用意出来てるか?」
「あっ、はーい。出来てます」
芦屋さんが声をかけると、奥からひょこっと顔をのぞかせたのは昨日の仲居さん。
って、昨日芦屋さんとキスしてた人……!!
私が見ていたことなど気付いていないのだろう、芦屋さんは普通の顔であれこれと指示をし、彼女も「はい」と頷く。
そこには恋人同士というような甘い空気はなく、こうして見ても上司と部下。
付き合っていることは内緒にしているのかな……?ついまじまじと二人の顔を見てしまう。
「えーと吉村さん……下の名前は?」
「あ……理子、です」
「理子ちゃんね。八木結菜です、よろしく」
美人な仲居さん……八木さんは、昨日同様の優しい笑顔でにこりと笑って小さく頭を下げた。
淡い緑色の着物に白い帯、黒い髪をきっちりとひとつにまとめ、清潔感のあるメイクできっちりと身なりを整えている。
こんな朝早くからでもこんなにきっちり……すごい。
「彼女はお前の指導係だ。お前と歳も近いし、5年以上働いてて仕事もよく分かってる、基本的には彼女の指示に従うように」
「……はーい」
言いながらその手は見とれてしまう私の背中をポンッと押し、彼女の前へと押し出す。