恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……で?何しに来たんだ」
「ちぃちゃんに会いたくて!」
「はぁ?」
「私……ちぃちゃんと、この旅館を継ぎたい!お願いします、もう一度チャンスをください!!」
え……?
千冬さんと、旅館を継ぎたい?
それってつまり、明日香さんはまだ千冬さんのことが好きだということ……?
驚き何も言えずにいる私の隣では、千冬さんが同じく驚いたように固まっている。
「……待て、明日香。俺たちはもう何年も前に別れただろ」
「うん。あの頃の私は本当にダメで……弱くて、頼りもなくて。だけどね、別れてからもずっとちぃちゃんのこと考えてたよ」
千冬さんの、ことを……?
「ちぃちゃんのこと、好きだったから。他の旅館でバイトもしたし、沢山勉強もしてきた。それくらい、今も好きなの」
千冬さんだけの前でならともかく、見ず知らずの私の前ですらも言えてしまう。
それくらい、彼女の千冬さんへの想いは真っ直ぐで大きい。
「今更ずうずうしいってわかってる。けど、それでも私がどれくらいまだちぃちゃんのことが好きか知ってほしい。だから、またやり直しをさせてください」
お願いします、とその場で深く頭を下げた明日香さん。その心が本気であることくらい、彼女のことをよく知らない私ですらも分かる。
ブレることのない、芯の通った声から、伝わってくる。
「……お前が本気なのは、よく分かった。けど、4年経てば俺も変わる」
けどそれに返す声も、ブレることのない真剣な声。
「今の俺には恋人がいるし、その彼女だって彼女なりに頑張ってる。そんな彼女が大切だと思うから、お前の気持ちには応えられない」
『お前の気持ちには応えられない』
彼女には厳しいくらいの、はっきりとした答え、だけど、揺らぐことなくはっきりと言い切ってくれたことが嬉しい。
千冬さんの心が、伝わる。
千冬さんを想い続けて戻ってきた彼女の気持ちを思うと、少し心苦しいものもあるけど……でもここまではっきり言ったら、諦めてくれるよね。