恋宿~イケメン支配人に恋して~
「というわけで、お世話になります!河本明日香です!よろしくお願いします!」
その日の夜、宴会準備から明日香さんは加わり仲居見習いとして働き始めた。
茶色い髪を綺麗に束ねた彼女は、私たちと同じ淡い緑色の着物に身を包む。
聞けばあれも、一人で着たのだという。『初めて着たけどこれ着やすくていいですね!』と笑う彼女の言葉に、数ヶ月かけて最近ようやく着慣れてきた私はひきつった笑いしかこぼせなかった。
「箕輪さん、宴会準備の段取り教えてくださーい!」
「宴会準備はね、まず数名でテーブルの用意をして……」
人見知りもしないようで、人懐こい笑顔と元気な声で、早くも皆に馴染んでいる。
今もこうして箕輪さんに仕事を教わりながら、きちんとメモをとっているのが見えた。
メモとってる……えらいなぁ。
そういえば私、最初からなんとなく頭に覚えようとしていたからメモなんてとったことなかった。しかもそれでうろ覚えだったし。
「明日香ちゃん、いい子よねぇ。千冬くんの元彼女って聞いたときはどうなることかと思ったけど」
「覚えもいいし愛想もいいし、ハツラツとしていいわよねぇ。おまけに動きもすごくいいわよ」
当然、そんな彼女は他の仲居たちにも評判がいい。
まぁ確かに、笑顔を絶やさないし元気もいい。人懐こいし働きもいい。……あれ、こうして見ると私と真逆?
見れば体型も私より背が低く、胸もある……。
いつだったか、宗馬さんが『千冬の好みはキミの真逆』と話していたのを思い出す。
そうしみじみと眺めていると、不意にこちらを向いた明日香さんと目が合った。と思えば彼女はにこっと笑いこちらへ駆け寄ってきた。