恋宿~イケメン支配人に恋して~
……で、考えすぎて全然眠れなかった……。
それから一晩が経った翌日。よく晴れた窓の外の景色に似合わぬ、どんよりとした顔をしながら、私はふらふらと別館内を歩いていた。
昨夜の千冬さんと明日香さんの光景に、あれこれ考えるうちに眠れなくなり、気付いたら明るくなっていた空。
体は疲れているのに頭は眠れないものだから、変なダルさが気持ち悪い……。今日は午後からのシフトだから、それまでに少し寝ておこう。
そのためにはまず、売店でなにか買って胃を満たしてから。
そう思い私服で館内を歩いているわけだけれど、足元はヨロヨロと頼りない。
本当は千冬さんに頼りたいけれど、昨日あれだけ想いを示してくれた彼にこれ以上なにを求めているのか自分でも分からない。
それにこの不安なこころを、どう言葉に表したらいいのかも、分からない。
……分からないこと、ばっかり。
溜息をひとつつくと、突然目の前に現れたなにかにドンっとぶつかった。
「ぎゃっ!」
「うわっ」
思い切りぶつけた鼻をさすりながら見れば、それは黒いエプロンを身につけた、仕事中らしい宗馬さん。
どうやら私は彼の腕に顔をぶつけたらしく、彼もまた痛そうに腕をさすりこちらを見る。
「いった……ちょっと、どこ見て歩いてるわけ」
「そっちこそ。いきなり現れないでください」
ちょうどすぐ側の部屋から出てきたのだろう。お互い様、というのも分かっているけれど、それぞれ互いに責任を押し付け合う。
ところが、宗馬さんはなにかに気付いたように私の顔を見た。
「なにその顔。死にそうな顔してるけど」
「別に。少し寝不足なだけです」
「へぇ。少し寝ないだけでえらいブサイクになるんだねー」
「うるさいですよ!」
悪かったな!えらいブサイクで!
怒ったように言うものの近くの窓に映る自分を見れば、疲れと眠気に目は充血し、顔色は青ざめ、整えていない髪は跳ね……確かにブサイクと言われても仕方ないかもしれないと自分でも納得出来てしまった。