恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……あの。聞いてもいいですか」
「ん?なに」
「もし、宗馬さんが昔付き合っていた相手が『ヨリを戻したい』って来たら、どうしますか?」
……宗馬さんに相談しなきゃいけないなんて、屈辱的だ。
だけど、同じ男性で千冬さんと似たようなところもある宗馬さんの意見が一番参考になるかもしれないし。
そんな気持ちから問いかけた私に、宗馬さんは突然なにをといったように首を傾げる。
「ヨリを……?あーまぁ、基本的にはないけど、向こうが本気なら分からないよね」
「え!?」
「だって一度は好きになった相手だし。浮気されたとかそういうのじゃないなら、可能性はなくはないでしょ」
そう、だよね……。
確かに、ふたりは互いに嫌いになったわけでもない。仕事が上手くいかなくて、そこから心がずれて別れを選んだ。
ということはつまり、千冬さんも立派な支配人になり明日香さんも仲居として心身ともにしっかりとした今、ふたりが戻る可能性は0じゃない……!?
広がる想像に肩を落とすと、宗馬さんはますます意味がわからなそうな顔をする。
「いきなり何の話?なに、千冬のところに元カノからヨリ戻したいって連絡でもあった?」
「連絡っていうか、ご本人が……」
「本人?……は!?あいつここに来たの!?」
「来たどころか、もう一度チャンスがほしいってここで働いてますよ……」
はっ!こんなことを言ったら、明日香さんのことをよく思ってなかった宗馬さんは余計怒るかも……!
「あ、いやでも、千冬さんも『どうせすぐ諦めるだろ』って言ってて……」
「……俺あいつ追い出してくるわ。でもって千冬ぶん殴ってくる」
「わー!待ってください!」
やっぱり怒ってるー!
暴力沙汰になる事態を防ぐべく、歩き出そうとする宗馬さんの腕にしがみつくように引き止める。
「千冬はあいつのせいで自分がどれだけダメになったか忘れたわけ!?それに一応、無愛想で色気もない奴でも彼女がいるっていうのに!」
「さりげなく悪口言うのやめてください」
なんとかその場に留めると、抑えきれない憤りを表すように彼はフンッと鼻息を荒くする。
「あぁ、もしかしてそれで?千冬があいつとヨリを戻さないかが心配なんだ?」
「……大丈夫だって、分かってるんですけど」
『分かってる』、そう納得したつもりでいても、こころは思い通りには向かない。