恋宿~イケメン支配人に恋して~
「私と比べたら、明日香さんのほうが出来た人だし、可愛げだってあるし……千冬さんのこと、沢山知ってるし」
「……千冬のこと、ねぇ」
「私より、明日香さんがいたほうがこの旅館にとってもいいのかもとか、思って」
私なんか、私より。考えれば考えるほど、嫌なほうへと向いてしまう。
小さく俯く私に、宗馬さんは呆れたように小さく溜息をつくと拳でコツン、と私の額を小突いた。
「キミは、千冬のことを信じてないの?」
「……信じてます、けど」
「なら堂々としてればいいじゃん。『今』の千冬の彼女は、キミなんだから」
『今』、強調したように言うその言葉。
「手、出して」
「手?」
言われるがままに手のひらを上に出すと、そこにコロン、と置かれた小さな包み。銀紙で個装されたお菓子のようなそれを、まじまじと見る。
「お菓子?」
「チョコ。さっき仲居のおばさんから貰ったけど、俺甘いの食べられないから」
「……私はゴミ箱じゃないんですけど」
また可愛げのない返しをする私に、その手は頬をぎゅっとつまむと口角を上げさせるように持ち上げた。
「ぎゃっ!いたい!」
「疲れてる時には甘いものが一番だからね。あんまり悩んでばっかりいると老け込むよ」
「老け……!?」
けらけらと笑いながら、宗馬さんは手を離しその場を去って行く。
頬、思い切り引っ張られた……!おまけに老け込むって!一言多いな!
じんじんと痛む頬を左手でさすりながら右手をひらけば、そこには先程のチョコレートがひとつ。
……宗馬さんに、励まされてしまった。
やっぱり、本当は面倒見いいタイプなんだな。