恋宿~イケメン支配人に恋して~
そして、明日香さんとふたりやってきたのはいつもの休憩室。
他の皆はまだ仕事をしているらしく、部屋にはふたりきり。
慣れた休憩室のはず、だけど明日香さんと二人きりとなれば当然緊張してしまう。小さくお茶を飲むしか出来ない私に、一方で明日香さんは置いてあるお茶菓子をもぐもぐと食べる。
「んー!おいしー!やっぱり朝早くから働くもお腹空いちゃうよねぇ。理子ちゃんも食べる?」
「いえ……私はいいです」
「いいの?体細いもんねぇ、ちゃんとご飯食べてる?」
にこにこともぐもぐと、いたってマイペースな彼女。
こんな感じで千冬さんのことも引っ張っていたんだろうな。そう思うとクールな千冬さんとにぎやかな明日香さんは、それはそれで合っているかもしれない。
「理子ちゃんは、ここで働いてどれくらい?地元の子?」
「……3ヶ月くらいです。地元は東京で」
「東京?奇遇だねぇ、私もそうなんだよー!仲間!」
みつけた共通点に、明日香さんは食いつくようにより一層テンションを上げる。
「3ヶ月ってことは……あれ、渋谷に新しいビル建ち始めたの知ってる?」
「え?そうなんですか?」
「そうそう!新しくファッションビルがオープンするんだって!今工事の真っ最中」
「へぇ……少し離れただけですぐ景色が変わっちゃいますね」
こっちにいると地元の様子もよく知らないというか、いまいち関心がなくなるというか……。
もう数ヶ月目にしていない渋谷の街の光景を思い浮かべながら、感心するように頷く。
「でも4年経ってもこっちは全然変わってなくて、ちょっと安心した」
「変わってない、ですか?」
「うん。景色も建物も、ずっとこのまま」
彼女の頭の中には、4年前の景色が思い浮かべられているのだろうか。
今と変わらない、4年前の街や景色。そして、千冬さんの姿。
「……あの、明日香さん」
「ん?」
「明日香さんはどうして、東京に戻って行ったんですか……?」
……どうしてこんな話、詳しく聞こうとしているんだろう。
聞いたところで、彼女と私は違う。何にもならないし、どうしようもないのに。
だけど聞いてしまった私に、明日香さんは湯飲みの中の熱いお茶を一口飲んだ。