恋宿~イケメン支配人に恋して~
『好き』……そういえば私、言われたことないや。
『俺は、お前を信じるよ』
どんなに想いを伝えても、大切だと抱きしめても、好きの言葉はない。
ねぇ、なんで、どうして。
なにを比べても、私には勝っているところなんてない。ふたりのすごした時間、築いた日々。それらに私は敵わない。
なにも知らない、言葉もない。いつも強く、凛とした彼の顔しか見たことない。
知らない。
それ、ばかり。
「あっ、明日香ちゃんいたいた!ちょっと手伝ってほしいことがあるの!」
「はーいっ、ごめんね理子ちゃん!じゃあ!」
「あ……はい」
会話を区切るように開けられたドアから、箕輪さんに呼ばれ、明日香さんは席を立ち部屋をあとにする。
ひとりその場に残された私の前には、少し冷めてしまったお茶と開けられたお菓子のごみ。
「……、」
どうしてだろう。千冬さんの存在が悲しいくらい、遠い。
今の恋人は私だって、堂々としたい。信じてる。
それなのに、遠いよ。